2011.08.01

先日、宮城県石巻市の復興支援ボランティアツアーに参加してきた。ボランティアツアーとは旅行代理店が被災地支援を目的に用意したパッケージツアーのこと。略して「ボラツア」とも呼ばれている。最近は観光旅行とボランティア活動を組み合わせたプランもあるようだ。被災地の支援活動に興味はあるけどなかなか一歩を踏み出せない方のために、今日はボラツアがどんなものなのかレポートしたいと思う。

そもそもボラツアなるものを知ったのは、さとなお(@satonao310)さんがブログに書いた「ボラツア:もっと気楽にボランティアする時期が来たと思う」というエントリーがきっかけだ。
個人的に被災地へ行くとなると乗り物や宿の手配、装備の準備が大変な気もするが、ツアーなら週末一日だけの空き時間でも手軽に参加できる。もし次の日が空いていれば一日観光してお金を落として来たっていい。このエントリーでそんな被災地支援の方法があることを知ってがぜん興味がわいた。

僕が参加したのはトップツアーが主催する東京発0泊3日のバスツアー
金曜の夜に出発して土曜一日だけの活動、日曜朝には東京に戻れるのでとても手軽なプランだ。料金も昼食がついて9,800円とリーズナブル。今回はモーグのシゲタ君と2人で参加することにした。

以下、時間軸に沿って報告するボラツアレポート。

7月22日 金曜 22時45分
ツアー用の荷物は朝から会社に持ってきていたので、仕事を終えてそのまま新宿西口にあるバスターミナルへ向かった。38名の参加者と添乗員2名を乗せて定刻の23時ちょうどにバスは出発。女性の参加者も6~7人いただろうか。年齢層は学生から40代後半まで幅広い。

添乗員さんから今回のツアーの概要をきいたところで車内は消灯となった。あとは眠っていれば朝には石巻……と思ったが少々甘かった。バスの中で寝るのは結構つらい。足も伸ばせず背もたれもあまり倒れない。車内にはトイレが無いため2時間おきにサービスエリアに停まり休憩時間となるが、そのたびにバスを降りて体を伸ばす。
たぶん気持ちも高ぶっていたせいだろう。なかなか眠ることができなかった。

チャーターされたバスはなぜか「はとバス」(笑)

土曜 午前4時頃
福島県内にある安達太良SAに到着。ここで時間調整もかねて2時間の休憩に入る。バスのエンジンも止まって車内がひっそりと静まりかえる。ようやく少しまとめて眠ることができた。

午前7時頃
宮城県に入り目的地の石巻専修大学に到着。天気は曇り。
ここに作業の拠点となるボランティアセンターがある。実はボランティアがその日何をするかはこの時点で決まっていない。ボランティアの支援が必要とされる場所や作業は日々刻々と変化しているのでその日にならないと割り当てられないのだ。がれき処理や泥かきの肉体労働になることだけは最初から決まっていた。

添乗員さんが38名を代表してセンターに向かい今日の作業を確認してきてくれる。我々の作業は「中里地区の側溝の泥かき」と決まった。ヘドロのかきだし作業だ。あらかじめ用意したマスクやゴーグルを装着する。

ここで装備について少し補足。
ツアーに申し込むと事前にどんな装備が必要かメールで通知が届く。それにしたがって僕が持参したのは、上下のヤッケ、ゴム手袋、ゴーグル、粉塵マスク、踏み抜き防止の中敷が入った長靴、それに着替えとタオル数本。ホームセンターやamazonで合計1万円もかからず準備することができた。また、ボランティア保険の加入も必須なので事前に居住区内にある社会福祉協議会で申し込んでからそのコピーを持参した。こちらは加入金600円で来年3月末まで何度でも使える。

8時
いよいよ作業開始だ。
作業場として指定されたのは海沿いから3キロばかり内陸に入った石巻市中里。
静かな住宅街で比較的被害がすくなかったようだ。倒壊した家屋はほとんど見あたらずきれいな家が立ち並ぶ。
それでも3/11から4日間は1メートル以上の水に町が浸かっていたのだという。

側溝の泥かきの手順は、(1)路上の側溝を開ける(2)スコップでヘドロをかきだし土嚢につめてまとめる(3)側溝を閉める、というもの。側溝の重い上蓋を開けてみるとおよそ10~20センチのヘドロがびっしり溜まり、生活用水の排水の流れを阻害しているのがわかる。こりゃ相当手ごわそう。

側溝をあけて作業中

作業はもちろん楽ではなかった。
側溝を覆う石の上蓋は十数キロの重さで、持ち上げると相当腰にくる。
ヘドロは海水と汚泥と生活用水の入り混じったひどい匂いを放ち、固まっているとかき集めるのに難儀するし、やわらかいとヤッケや手袋にはねて泥まみれになった。ヘドロが目に入ると非常に危険なのでゴーグルは手放せないが汗で曇ってしまって使いものにならない。曇ったゴーグルのレンズを何度もタオルでぬぐいながら作業は続く。
今日は町内をまわりながらこれを延々と繰り返す予定だ。
ふだん使わない筋肉をいやというほど使って体が悲鳴を上げはじめる。

それでも徐々に作業に慣れてくると、より早くより的確に処理できる勘所みたいなものが少しずつ分かって楽しくなるから不思議だ。作業者は2人がペアになって一方はスコップでヘドロをかき集め、もう一方は土嚢袋を手にそれを受け止める。スコップはかなり力が要るので女性は主に受け止め担当となる。
午前中はとにかく無心になって土嚢を作り続けた。

これはビシャビシャのヘドロ。はねて目に入ったりしないよう細心の注意をはらう

12時
添乗員さんからお弁当が配られて昼休憩に入る。
集会場の中でも食べられたがそのまま外で食べることにした。何の躊躇もなく路上に座りこみパツンパツンに筋肉が張っている足を投げ出して弁当をいただく。これが美味かった。コンビニものとは違うちゃんとした手作り。
一瞬の幸せに浸る。

昼食中のシゲタ君。自衛隊にスカウトされそうな見事な働きっぷり

実は今回僕は初めてボランティアというものに参加したのだが、参加者がとにかくよく働くのには驚いた。昼休憩は13時までだったがほぼ全員が15分前には身支度を済ませ午後の作業に入る。
誰にも指示されなくてもそこにいる全員が自分にできることを精一杯やる。とはいえ無理をすると周りに迷惑をかけるから疲れたら休むし、休む人がいれば自然にだれかがフォローする。協力しあわないとできない仕事なのでよく声を交わしお互いに相手をよく見ている。
限られた時間の中、なんとか被災地のために役立ちたいという気持ちが強いからこんなにも懸命に働くのだろう。

13時
午後からも場所を変えて作業は延々と続いたのだが、なぜか他のツアー客とペアになっていることに気づいたときは思わず笑った。よく見ると神奈川県の某自治体の人とペアを組んでいた。ツアーの所属は違っても与えられた作業は同じなので別のツアー客がまじりあって作業していたということ。
もちろん差し支えはない。

思いのほか順調に作業は進んで午後3時前に泥かき終了。
我々トップツアー38名だけで200メートルくらいの側溝を処理することができただろうか。あまり気温が上がらなかったのも幸いした。
とはいえたったの200メートル。宮城県の被災地のひとつの町のほんの一区画の、ほんのわずかな作業のお手伝いをしたに過ぎない。

土嚢土嚢土嚢(ほんの一部)

15時
上着や長靴を脱いでバスに乗り込むと、これからバスは津波の被害がもっとも大きかった地域に向かうという。
それはツアーを主催した代理店の配慮によるものだった。今日作業した中里は比較的ダメージが少ない地域だったのでこのまま帰ってしまうと「意外と大丈夫じゃない?」と誤解されてしまうかもしれない。
被害のすさまじさを参加者全員の目に焼き付けて家族や仲間や知人に伝えてほしい。なにかを感じてほしいというのが主催者の考えだった。

石巻街道をしばらく走り、石巻湾に近い一画まで進んだとき急に空気が変わったように感じた。

このとき僕が目にした光景はやはり想像以上にきびしい現実だった。
およそ4ヶ月前までごく普通の生活者の営みがあった住宅地は、家屋の二階部分をきれいに残した不自然な状態で一階部分が「まったくそこに無い」のだ。
しかもあたり一面はるか遠くまでこの状態がつづいている。

復興までこれから本当に長い時間が必要だろう。
人間の知恵と労力と善意とそして莫大な資金が必要であることはまぎれもない。
そのことをつよく覚悟させられる光景であった。

17時
バスは高速をしばらく走って名取市にあるスーパー銭湯「極楽湯」に到着。
この0泊3日のツアーはお風呂の時間がある。他のツアーで作業の後はそのまま東京へ帰るものもあったが体にヘドロのにおいがしみついていたので風呂に入れたのは有難かった。ここでは夕飯の時間も含めて計3時間の休憩。作業が終わった開放感と充足感もあって本当にリラックスすることができた。

ほっと一息

20時
バスが東京に向けて出発。来たときと同じように2時間おきにSAで休みつつ新宿へ向かう。
帰りはさすがによく眠った。

日曜 午前5時
新宿西口に到着。朝日がまぶしい。
0泊3日と言ってもわずか30時間のこと。このツアーなら日曜日はふだんどおりに過ごすこともできる(筋肉痛が無い場合に限る)。僕も朝から早速息子につきあって公園遊びに出かけた。

「気楽にボランティアする時期が来た」というのは本当だった。
週末をつかってちょっとボランティアってのはアリだ。
それを心待ちにしている方がまだまだ大勢いる。

ボランティアは肉体労働だけじゃない。たとえば避難所にいるお年寄りの話相手になる活動もある。これは人生経験豊富な大人にしかできないと思うから、労働系はシンドイという方はそういうものを検討されてはいかが。

僕自身もまた折を見て足を運びたいと思っている。
興味がある方は気軽に声をかけてください。

(文責: 廣島健吾)