2011.10.23

さとなおさんこと佐藤尚之氏の「明日のコミュニケーション」を読んだ。

本書はソーシャルメディアの普及にともないネット上のコミュニケーションが急速に変化してきた今日の様相を考察し、企業のコミュニケーション戦略のあるべき姿を提示している。

Web構築を生業としている自分自身にとってもたいへん示唆に富んだ内容だったので、一部引用させていただきながら感じたことを書いてみたい。

佐藤氏は00年代以降のネット上のコミュニケーションの変遷をとてもわかりやすく解説している。要約して書くと以下のようになる。

2003年頃から始まったブログ時代、アルファブロガーと呼ばれた一部の発信力のある人々を中心に、それをとりまく読者たちをハブとして情報はゆっくりとした速度で広がっていった。いわばツリー状の拡散。

これに対して、2009年頃から本格的に普及したソーシャルメディアでは、まずはそれまでばらばらだった影響力のある個人がつながった。そして、彼らの発する情報は共感した意見をワンタッチでRT(リツイート)できる簡易な仕組みによって、ブログ時代よりはるかに速く広く拡散することとなった。
曰く「一滴の水が360度に波紋を起こし、大波に変わる」ような拡散。

佐藤氏はソーシャルメディアが「関与したかったけどいままで関与する手段を持たなかった人たち」や「深く関与したいわけではないけどちょっとだけ関与したい人たち」をも結びつけたと指摘する。さらにソーシャルメディアは「彼らが実際に動くプラットフォーム」としても機能した。

海外ではエジプト革命において、日本国内では東日本大震災のあとTwitterやFacebookをきっかけにこれまで関与できなかった人たちがつながり、実際に行動を起こした。
佐藤氏の発案でスタートし、政府と民間ボランティアが連携した復興支援情報サイト「助けあいジャパン」の活動もそういった流れのひとつと言える。

日本国内だけで約2000万もの人がソーシャルメディアを使うようになった現在、企業のコミュニケーションにとってもソーシャルメディアは必要不可欠な存在となっている。

佐藤氏は今の時代を「商品丸裸時代」と書く。広告がどれだけ大きな声で商品の良さをアピールしたとしても、本当のところはネット上の比較サイトや口コミで比較吟味され、丸裸にされてしまう。同時に、今は商品成熟の時代だ。価格も特長もさほど変わらない商品が店頭にたくさん陳列されて何を選んでよいのか分からない時代になりつつある。

そんな時代に生活者が耳を傾け、行動を起こす(消費活動をおこなう)よりどころになるのは、知人や友人の信頼できる情報であったり、贔屓にしている企業ということになる。

これらのことを背景に、企業がどのようにソーシャルメディアとかかわるべきか。
本書では「企業も「人」として丁寧に誠意をもって入っていくこと」が必要だと説く。謙虚で誠意あるつきあいを生活者と続けて「エバンジェリストやロイヤルカスタマーと呼ばれる人を育て味方につけてロングエンゲージメントを築く」ことが大切であると。

企業も「オープンになること」。
そして「口説くのではなく愛される」姿勢だ。

自分自身の行動を振り返ってみてもこのことは実に納得できる。ネット上に乱立するサービスから何かを選択するときにその手の情報に精通してる知人のアドバイスに従い決めることが多いし、コンビニにでかけて買い物するときは「あの人が勤める会社の商品だから」と思って買うことがある。Web系だと「よく知っている会社が作っているアプリやサービスだから応援したい」と思ってダウンロードするしアカウント登録をする。

オープンになって愛されることは、我々のような家内制手工業的零細Web制作会社にとっても大変重要な態度だと感じる。
5人ぽっきりの会社で仕事を続けていくためには、ひとつひとつの仕事を誠心誠意こなしながら、自分たちの行動をガラス張りにし、愛され、選んでもらうしかない。

「あの人がいる会社だからお願いしたい」と思ってもらうしかないし、
顔の見える「あの人」になることが一番の営業活動だろう。

そもそもこの本を買ったのだって、さとなおさんのTwitterをフォローし、その活動ぶりに大いに共感し、「是非読んでみたい。ファンだし」という動機があったからだ。
佐藤氏こそまさに自らをオープンにし、愛される人であり、その活動はソーシャルメディア時代のコミュニケーションのあるべき姿なのだろう。

ソーシャルメディアは一過性のブームで終わるとは到底思えない。それはネット上のコミュニケーションの進化の一形態で、今後もその進化は止まることがないだろう。はたして来年、再来年はどうなっているのか。そういう意味では本当に面白い時代になったと思う。

本書はこのブログにはとても書ききれないほどたくさんの気づきをもたらしてくれる。
とても読みやすい本なので、興味のある方は一読をおすすめします。

(廣島)


明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法 佐藤尚之 著 (アスキー新書)