2011.02.04

久しぶりにブログの更新です(←この書き出しは常態化するとマズイ……)。
最近の出来事をいくつかまとめて書き留めておきます。

まずはモーグの新スタッフについて。
2月から正社員として江部玲子(@Rei_moag)が入社しました(パチパチパチパチパチ……)。
昨年11月の社員募集で応募してくれ、2月から正社員として活躍しています。好きなことはイラスト描きと美術館めぐりとうさぎ/(・ x ・)\ 。きらいなものは肉と温泉卵とマヨネーズという、やや偏食気味のWebデザイナー兼アートディレクターです。学生時代はオーケストラでチェロを担当していた音楽好きでもあります。みなさんこれからどうぞご贔屓に~。

さて年が明けて早くも一か月。この間は、たまたま複数のコンペ参加に声をかけていただき、企画書を作ったりプレゼンをやったりという仕事が重なったひと月でした。Webサイトの設計を一から見直す規模の大きめのものから、iPadアプリの企画提案とデモ版開発、あるブランドサイトのトップページ改修など、課題もそれぞれでした。モーグがコンペに参加するときは案件の内容などを鑑みてプレゼン担当を決めていますが、今回は見事にばらけたので各々が提案の準備しているような日々でありました。
今日はわたくし、廣島がプレゼン準備の際に読んで役に立った本をいくつかピックアップして紹介したいと思います。かなり個人的な趣味に基づいたセレクションも混ざっていますのでその点はご了承ください。

プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術
(永田豊志・著/中経出版)
これはただひとつHowTo系で、昨年12月に出たばかりの本。冗長な文章や分厚い提案書を全否定し、簡潔に言いたいことを伝えることの大切さが終始語られています。特に力説されていたのは、提案書を作る前に「まずは考える時間を十分に割くこと」。考えがまとまらない間は絶対PowerPointを起動してはいけないということ。そんな企画書作成時の姿勢に関することだけでなく、考えたことを平易に図解するテクニックも具体的に示してくれるのが本書の良いところでしょう。掲載されている手書きの図説は、まるでカフェで誰かと打ち合わせしながらナプキンの裏に走り書きしたメモのようです。余計な注釈はそぎ落されて実に分かりやすいのです。この図説を眺めるだけでも価値があるかしれません。

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
(カーマイン・ガロ・著/日経BP社)
読もう読もうと思ってなかなか読む機会がありませんでしたが、今回ようやく目を通すことができました。読後に感じたのは「本当に読んで良かった」ということです。
アップルの魅力の真髄はそのシンプルさにあると思いますが、そのシンプルさは製品デザインだけでなく、プレゼンテーションのスライドにも、ジョブズが選び発する言葉のひとつひとつにもよく表れていることを改めて実感しました。そして「ほんの数ミリ程度」でもよいのでそのエッセンスを自分のつくるものにも配したいなあと心底思わされました。たぶんこんな文章書いてる時点でダメですね(笑)。
また、彼ほどのプレゼン巧者であっても事前のリハーサルを何度も繰り返すというくだりを読んで非常に感銘をうけました。ひとかどの人はやはり努力の量も半端じゃないものです。この点はプレゼンに備える際、たいへん参考になったことですし、自分なりに実践できることでもありました。そういう意味で読んで本当に良かった本です。
もう一点。解説の外村仁氏と翻訳の井口耕二氏がアップルとジョブズををよく理解していて、その文章も実にすばらしいものでした。

旅する会社 (株)デジタルステージ代表平野友康のすごいソフトウェア開発
(平野友康・著/株式会社アスキー)
昨年末、Twitter上のやりとりに端を発して、著者の平野氏と元マイクロソフトの古川享氏が坂本龍一氏の北米ツアーをUST中継を実施。今年1月には視聴者も巻き込んだ韓国ライブのUST中継がおこなわれたのはご存知のかたも多いかもしれません(詳細なレポはこちら)。韓国ライブでは、日本のユーザ同士が一緒にUSTを視聴できるパブリックビューイングまで催され、あとで「ソーシャルメディアの夜明け」と呼ばれるほどの、ちょっとした事件のような盛り上がりをみせました。

教授の演奏がフリーで観られるというので僕もUSTをつけっぱなしで見ていたわけですが、この本の著者である平野氏の存在感とマルチな活躍ぶりにはすっかり魅せられてしまいました。急遽決まった日本でのパブリックビューイングを、TwitterとWebサイトだけのプロモーションで視聴者を巻き込んで実現してゆく行動力と牽引力には本当にしゃっぽを脱ぎました。それで興味を持って買ったのがこの本。これを読むと、世界中を旅しながらソフトウェアを開発していたという平野氏とその会社のユニークさがよくわかります。
USTで視聴者に語りかける平野氏の言葉やふるまいは良質なプレゼンテーションそのもので、相手に「一緒に仕事をしてみたい」とか「この人に任せてみたい」と思わせる、独特の魅力に溢れたものでした。プレゼンの準備にとりかかっていた自分にとっても参考になるものがありました。

最後に、ツアーの最中に平野氏がTwitterに書き込んだ言葉もとてもよかったので以下に引用しておきます。

「走りながら、よく考える。失敗する、成功する、満足しない、次を目指す。」・・・これが今回僕が教授から貰った言葉であり、僕が体にしみ込ませたいこと。たまに休むことはあっても、もう僕は、立ち止まって考え込んだりしない。何にも代え難い財産を手に入れたよ。

「走りながら、よく考える」ー実に響く言葉です。

疲れすぎて眠れぬ夜のために
(内田樹・著/角川文庫)
内田樹氏の本は最近よく読みますが示唆に富んでおり、煮詰まった時に自宅でそっと開いては読んでいました。とくに心に残ったのは「交換は愉しい」と題された章。以下、一部を抜粋します。

仕事の目的は結果として価値あるものを作り出すことではないのです。それなら、どんな手段を使ってもよいということになります。仕事の目的がお金を儲けることなら、効率的でありさえすれば何でもいいはずです。でも、実際にはそうではありません。
人間が人間に求めているのは、突き詰めて言えば「コミュニケーション」です。ただ、それだけです。
やったことに対して、ポジティブなリアクションがあると、どんな労働も愉しくなります。人にとって一番つらいのは、自分の行いが何の評価も査定もされないことです。
(中略)
要するに、「やりとり」をするのが人間性の本質だということです。
それさえ満たされれば、人間はかなりの満足を覚えることができます。
「やりとり」というのは「交換」のことです。
人間は交換が好きなのです。
ネアンデルタール人とクロマニョン人の違いはここにあるということを三浦雅士さんが書いています。
三浦さんによれば、山の民と海の民は収穫物が余ったから物を交換したのではなく、交換したかったらたくさん収穫したのだ、というのです。別に、要るだけ栽培したり、要るだけ採っていればそれで足りたのに、交換することが愉しかったので多めに作るようになった。そして分業が生まれ、階級が生まれ、国家が生まれた、というのが三浦説です。
この解釈は交換の本質を鋭く衝いていると思います。

このコミュニケーション論は非常にしっくり来る話でした。「愉しみがなければ仕事にはならない」ということを実にうまく証明している論説でした。

以上、プレゼン準備の最中に読んだ本についてレビューを書き留めておきました。
そういえば、紹介した本は全てTwitterをきっかけに情報収集して購入したものばかり。ソーシャルメディアにどっぷり浸かっている2011年です。

(文責: 廣島健吾)