2012.07.02
先週、知人のデザイナー藤木穣さんと打ち合わせをするため世田谷区経堂にある「Pax Coworking」へ行ってきた。Pax Coworkingは東京で最初にオープンしたコワーキングスペース。噂に聞いていたコワーキングスペースだけど、思っていた以上にワクワクとした創造性に満ちた刺激的な場所だった。
コワーキングスペースというのはフリーのデザイナーやエンジニア、その他IT業界にかかわらずさまざまな職業を持つ人が利用料を払って各々の仕事をするオープンな共同スペース。6年前サンフランシスコで生まれ、日本でも昨年頃から注目されつつあるのでご存知の方も多いだろう。
藤木さんが常駐している Pax Coworkingは実に開放的な雰囲気でとても居心地のよい場所だった。
窓から明るい日ざしの入るスペースには大きなテーブルが3つあり、それぞれ数人ずつが腰かけ、ヘッドフォンをつけて集中して作業をしているエンジニアもいれば、我々のようにちょっとした打ち合わせをしている人もいる。
ひとしきり打ち合わせをした後は、主催者である佐谷さんやその場にいた方々にもご紹介いただいたが、皆さんオープンで自然体だ。
コワーキングスペースはシェアオフィスやレンタルオフィスとはまったく違う一種のコミュニティ空間だという。
そこには異なる知識やスキルを持つ人達が互いに情報交換したりコラボレーションすることを目的に集まっている。
主催者の個性でスペースごとにずいぶん雰囲気も異なるらしく、人それぞれ相性もあるから、いくつかのスペースを渡り歩いて自分と相性の良い場所を見つけることも普通のことらしい。そのため「Jelly」と呼ばれるスペースの体験会も定期的におこなわれている。
初めてコワーキングスペースを訪れて、ふと学生時代にインドで泊まり歩いた旅行者向けのゲストハウスのことを思いだした。
インドはバッグパッカー向けの宿が充実していて僕もガイドを片手に何軒か泊まり歩いたが、場所によって集まる人種も雰囲気もまちまちだった。おしなべて、日本人ばかりが集まる場所はクローズドな雰囲気で刺激もすくない。何十日も連泊してる常連の日本人達が閉鎖的な空気をつくっていてどうにも居心地が悪い。もちろんそれが安心できて心地よいという人もいるだろう。
一方で、イスラエル人やらフランス人やら多様な人種があつまるゲストハウスは初めて会った者同士でも会話がはずむし、ガイドに載ってない面白い旅の情報も教えてもらえて非常に有意義だった。
コワーキングスペースにも似たようなところがあると思う。自分にはないスキルを持った多様な人たちが集まる場所だからこそ価値があるのだろうし良いコラボレーションも生まれるのだろう。場所ごとにノリが違って、自分の合うところを探して歩くところもどこか似ている。
藤木さんは昨年独立後 Pax Coworkingに入居してから、すでにたくさんのイノベーティブなコラボレーションに参加している。会社勤めしていたときとは見違えるほど生き生きしていて正直驚いてしまった(読んでたら失礼!)。
なかでも共同出資し、デザイナーとして参加している音楽アプリ「nana」はとても楽しみなプロジェクトだ。
nanaはiPhoneのマイクをつかって歌や楽器を録音し、世界中の人と多重録音のコラボができる音楽制作アプリだ。夏にオープンβのリリース、その後はPCのサービスも予定しているという。マイクロソフトのサポートも得て、アメリカを拠点にビジネス展開するのだとか。nanaの発案者でもあるnana musicの代表・文原明臣氏はなんと26歳(!)。
会社組織や国内市場の小さな枠組みを飛び越えて、シリコンバレーと地続きで活動している彼らの軽やかな仕事ぶりには心から敬服。是非成功してほしいと願うばかりだ。
帰り際、藤木さんからは5月に出版したばかりの書籍『つながりの仕事術「コワーキング」を始めよう』をいただいた。こちらはPax Coworkingの主催者佐谷さん、藤木さんらによる共著。コワーキングの歴史や利用のための心得、日本や海外のスペースの紹介など、日本に根付いて間もないコワーキングスペースの入門書となっている。
ちなみにこの書籍もPax Coworkingに出入りしている藤木さんの知りあいの編集者による企画なのだとか。
小さなワーキングスペースで、大企業とは異なるやり方で新しいイノベーションが起こっていることを実感させられる一日だった。
(廣島)
・nanaのサイト http://nana-music.com/
・ASCII.jpのnana関連記事 http://ascii.jp/elem/000/000/701/701187/
・『つながりの仕事術「コワーキング」を始めよう』 (洋泉社新書y) 佐谷恭/中谷健一/藤木穣 共著